商店街にあるからこその強みを生かしたい

 

日之出塗料店

(取材:くみこ)

 

「ベストセラーは汚れ落としのクリーナー」???

 ペンキを売る塗料店の意外な売れ筋商品。日之出塗料店は、和田商店街でも異色のお店だ。

身近だった塗料専門店

昭和34年、世の中が皇太子と美智子様のご成婚に沸いていた年、現店主、吉村治樹さんの父親である先代が高円寺から店舗を移し、この和田の地で日之出塗料店を創業した。

 

当時まだ珍しかったオートバイに荷物をたくさん積み込み、忙しく仕事先を回っていた先代。オートバイを店頭に停めていると、近所の子供たちが集まって見に来ていたのも思い出されるという。まだテレビも各家庭になかった時代である。電話も普及し始め、日之出塗料店もずいぶん早い時期に回線を持った。

 

和田商店街も活気にあふれていた。

 

 

どんな質問でもわかりやすく例を挙げて答えてくれる吉村さん。話題も豊富。

 現店主、吉村治樹さんは専門学校を卒業し、昭和43年に先代と一緒に仕事を始めた。吉村さんが19歳の年だった。まさに父親との二人三脚で仕事にあたる毎日。先代が亡くなり、平成9年に2代目を継いで現在に至る。

 

今「塗装店」でもなく、「塗料店」として個人でお店を構えているのは珍しい。

 

かつては同業者も中野に1軒、高円寺に1軒、青梅街道に新宿に着くまでに2軒程度あり、お店では家庭向けの商品も好調だった。

 

「平屋が多かったからね。家は木でできていて、外壁があって、部屋の中は漆喰の壁、門扉にベランダ。塗るところはいくらでもあったし、自分でやる人も多かった」。


 

またお客さんも、バイクの改造ブームが起こればバイクにペイントする塗料を求めにやってきた。

 

ウッドデッキを自作するDIYブーム」時には、塗料を含むDIY用品を求めにやってきた。

 

ヘラブナ釣りブームでは浮きをカラフルに塗るための塗料探しのお客さんが多くなった...と、地域に住む人々の暮らしに密着した店として、日之出塗料店は存在していた。

 

お店もその都度、客の要望に応えられるよう、品揃えを臨機応変に変えていけたのは、「商店街にある塗料店」の強みであるだろう。

 

塗料は『間口が広くて、奥行きが深い』

塗料は大きく「建築用」「工業用」「造船用」と3つに分けられるが、塗料メーカーは更に細かく分かれ、それぞれ商品数も膨大だ。

 

日之出塗料店では建築用(=家庭用)1社を取り扱っているが、その1社の塗料の中でも用途によって商品が異なってくる。

 金属のようにみえる塗料を塗った発泡スチロールなど、見ているだけで楽しい塗装見本の数々。


 

「何を」「どこに」塗るか―――。商品自体の知識もさることながら、建築についてや素材について、塗り方について、化学についてなど幅広い知識が必要となってくる。そんな知識は日々の勉強と、これまでの経験の積み重ねが大きくものを言う。

 

携帯電話の塗装から、飛行機、ロケットの塗装までと思えば、塗料は『間口が広くて、奥行きが深い』と言われるのも納得だ。その経験から得た細かいノウハウは、すべて吉村さんの頭の中に入っている。

 

「人の名前は忘れても、こればっかりは忘れることがないね。みんなそうだろうけど...」と謙遜しながらの口調にも、経験に裏づけされた自信がうかがえる。

 

知られざるヒット商品

噂の「ニッペ・ホームクリーナー」。レンジのみならずPC周りプラスチック部分の汚れをバッチリ落とす優れものです。

現在の日之出塗料店は、金物店や日曜大工店など、業者向けの販売が多くなっているが、インターネット経由での個人向け販売も行っている。

 

その中で「ニッペ・ホームクリーナー」という商品は、年間1,000本以上売れる、隠れたヒット&ロングセラーだ。

 

塗料と掃除用クリーナーとの関係であるが、「汚れを強力に落としながら下の塗料は剥がさずに守り、傷めない」のだそうだ。

 

なるほど言われてみれば、塗装された素材のプロである、塗料メーカーがクリーナーを販売するのももっともだ。

 

商品名で検索されて問い合わせがあったり、「他店で購入するより安い」と掃除の定番品として愛用している人も多いという。日之出塗料店の一押し商品でもある。

 


住まいにもっと色彩を!

「個人のお客さんに、もっとお店に来てもらいたいよね」と吉村さんは言う。

 

塗料をお客さんに理解してもらうのが難しい点は、塗った後、5~10年、もっと20年でも、時間が経たないと良さがわからないところだ。

 

木目を生かした塗料。塗り重ねることで、木の風合いや渋みが加わってきます。


塗装するのは見た目を美しくするためでもあるが、「素材を保護するためでもある」という点に、多くの人は目が向かない。

 

たとえば外壁でも、最近はメンテナンスがいらない素材が増えているが、その中でも「メンテナンスした方が長持ちするものがある」ということなど、なかなか知られていないかもしれない。

 

塗装は素材の保護の為には必要、美しく仕上がるのも最低限必要、それ以上は絶対に必要というわけではないのだが、色や状態が変わるだけで一気に印象が変わる。

 

「なにしろ部屋の壁の色の塗り替えにしても、出来上がった後の楽しみが一番あるよね」と吉村さんは、淡い色から濃い色まで載った分厚い色見本帳を手に、「だからうちのキャッチフレーズは『住まいにもっと色彩を!』」

 

「わからないからこそ専門店へ」

 

素人には敷居が高く思われる専門店であるが、素人だからこそプロのアドバイスが欲しいところ。

 

様々な種類が並ぶ塗料売り場で途方に暮れてしまうより、「何の素材で」作って、「どこに」「何を」塗ったらいいか―-趣味がDIYでもある店主に、まずは相談してみるのが完成への近道のようだ。

 

せっかくのDIYにしても、何を塗ったらいいかわからず、適さないものを選んだばっかりに失敗してしまい、その後やらなくなってしまうのが「ほんともったいない!」と吉村さんは声を大にする。もちろん塗り方のコツまで、惜しみなく教えてくれる。

 

「説明できないと、我々の商売はできないからね。教えることもひとつの仕事だと思ってる。だから教えたことで『うまくいったよ!』『良かったよー!』って声を聞くのが一番嬉しいよね」

 

「今はインターネットで色々な情報が得られる。その後でうちに来てもらうのも大歓迎!」とも話している。

 

店主ご自身で開設されたホームページにリンクされているブログには、棚を作ったり、パソコンを組み立てたり(!)、と趣味の知識も豊富。

 

そんな吉村さんのお人柄なら気軽に話を聞いてもらえ、経験者にはより適切な、初心者には見本を使ったわかりやすいアドバイスがもらえるはずだ。

 

かつてDIYにチャレンジしていた人も、ここ最近の素材や塗料の進歩はすばらしいので、まだ知らない塗料での出来ばえを試してみても面白いかもしれない。

 

 (取材日:2013年7月1日)

 なかなか縁がないと思っていた塗料・塗装の世界。お話を伺ってみれば、室内の家具はもちろん、パソコンも携帯電話も楽器も子供のおもちゃも、生活の中は塗装されているものだらけだ!と急に塗料が身近に感じられるようになりました。
 玄関には石床用ワックスを塗ったら掃除が楽になるな、とか塗ったところが黒板になる塗料で大きい黒板を作ったら楽しそうだな、などと色々妄想が広がっています。(くみこ)