おせっかいで縁を結ぶ―和田の仕掛人

和田地区 児童委員・民生委員 瀧澤征宏さん

(取材:ゆかりん)

 

 和田商店街を歩いていると、「ホッと一息縁台」と書かれたのぼりが、目に飛び込んできた。傍らには昔懐かしい縁台が置かれ、買い物途中のお年寄りがひと休みしたり、こどもたちが並んでお菓子を頬張ったり、思い思いに「ホッと一息」ついている。

 

生まれは和田1101番地

「お年寄りの暮らしを何とかしたいんだよね」。次から次へとアイデアが飛び出す瀧澤さん。エネルギッシュです。

 縁台の設置を呼び掛けたのは、和田のタッキーこと瀧澤征宏さん。生まれも育ちも和田という生粋の和田っ子で、民生委員をしていた母が、近所の人に食事を届けたり、生活の相談に乗ったりする姿を見て育った。貧しい中でも、人々が寄り添って暮らしていた時代だった。

 

 瀧澤さん自身も地元に根ざした生活をおくってきたのだろうと思いきや、「いや、全然」という答えが返ってきた。広告代理店のプロデューサーとして多忙を極めた現役時代。仕事仕事の毎日で、近所の集まりに顔を出したこともなく、飲みに行くのは銀座や赤坂。「地元で飲んだことなんて一度もなかったよ」。


定年退職後の街デビュー


 退職後、久しぶりにゆっくりと生まれ育った和田を歩いた。記憶の中の街は、こどもたちの遊ぶ声が響きわたって、夕方にはどの店も買い物客であふれていた。ところが今はどうだろう。高齢化が進んでひっそりと静まり、商店街はシャッターを下ろした店が目立つ。これほど寂れていたとは…。そんなとき、町会の役員をやってみないかと声をかけられた。


 町会の仕事は多岐にわたる。町内の美化、地域の防犯や防災、親睦を深めるための行事の開催。自分たちの住む街がより快適で住みやすい環境になるよう、自分たちの手で街づくりをすすめるのが役割だ。敏腕プロデューサーだった瀧澤さん、イベントや企画はお手の物。和田小学校の80周年記念行事を手助けしたり、和田公園のはじっこまつりでは和田の街をテーマにしたカルタを披露した。


 しかし、イベントで人が集まっても、賑わいは一過性のもので終わってしまう。もっと根本から街を元気にしたい。瀧澤さんの脳裏に、近所の人を訪ねる母の姿が浮かんだ。

 

 

おせっかいこそ地域社会再生のカギ


 和田は、杉並区の中でもお年寄りの多い地域だ。瀧澤さんは、ひとり暮らしのお年寄りを訪問し、ひと声かける活動を始めた。


 母が民生委員をしていた頃とは違い、人と人との関係が希薄になった現代、余所の家に入っていくのはおせっかいと思われるかもしれない。しかし、敢えて一歩踏み込んだおせっかいが地域を再生させるカギになると、瀧澤さんは考えた。「突然訪ねていって「どう、元気?」なんて言ったら、そりゃあ最初は警戒するよ。でも、やっぱり喜んでくれるんだよね。お年寄りだって、話を聞いてくれる人が欲しいんだよ」

 


街と人とを縁結び

 

 「ホッと一息縁台」も、そんなおせっかい心から生まれたアイデアだ。こちらから訪問するだけでなく、お年寄りにもっと外に出てもらいたい。商店街に足を運んで買い物をしたり、近所の人と言葉を交わしてもらいたい。足腰が弱って引きこもりがちなお年寄りに、気軽に外出してもらうにはどうしたらいいだろう。疲れたときにちょっと休める場所があるといいんじゃないか。そうだ、縁台だ。昔はどの路地にも縁台があって、夕涼みをしたり、将棋を指したりしたものだった。縁台で、街とお年寄りの縁を結ぼう―。

 

 空き地や休眠店の店先を利用して、8台の縁台が和田商店街に設置された。

縁台にフラッグをつける気配りは滝澤さんならではのきめの細かさ。商店会を応援する自治協力会のやさしさが伝わります。


 突如現れた縁台に、初めは遠巻きに眺めていた住民たちも、ひとり座り、ふたり座り、今ではすっかり商店街の風景に溶け込んでいる。今後は、この縁台がこどもからお年寄りまで、世代を超えたコミュニケーションの場になってくれたらと、瀧澤さんは期待している。

 

 現在、町会の仕事は退いた瀧澤さんだが、街づくりへの思いは変わらない。和田の街の再生、そしてここに暮らす人々をおせっかいでつなげていくのが、第二の人生で自分に与えられた仕事。
 和田のタッキーが次は何を仕掛けるか。瀧澤さんの縁結びは、これからも続く。

 

 

取材の後、瀧澤さんは商店街の電柱に無断で貼られたチラシを見て、「こういうの貼っちゃダメなんだよな〜」と、はがしながら去っていきました。さすが和田のタッキー!みんなが素敵なおせっかいを焼き合って、より暮らしやすい街にしていきたいですね。

2012.11.3 (取材:ゆかりん)